海外に移住する際の税務上の注意点

 今回は、海外赴任や海外への移住も考えていらっしゃる方々が、税務面で注意をしなければいけない点について述べたいと思います。

  1. 所得税
     日本の所得税法では、「居住者」を定義し、それ以外を「非居住者」としています。
    「居住者」とは、国内に「住所」を有し、または、現在まで引き続き1年以上「居所」を有する個人のことを言います。そのため、海外赴任等であっても1年を超えるような赴任の場合には、所得税法上、「非居住者」として扱われます。

     次に、「非居住者」となった場合には、何が所得税法上、変わるかというと、課税の範囲が変わります。「居住者」の場合、日本はいわゆる全世界所得課税と言われており、仮に海外における収入であったとしても、日本の所得税の確定申告において、申告を行い、日本に税金を納める必要があります(ただし、租税条約で別途定めがある場合は異なります。)。海外に関する収入については、海外でも課税されている可能性があるので、その場合は、外国税額控除の制度などを利用し、二重課税を回避することとなります。


     一方で「非居住者」の場合は、国内源泉所得(所得税法161条に列挙されています)とよばれる所得にのみ課税されます。代表的なものは、日本に存在する不動産の賃料や日本の会社からの配当、日本で勤務したことによる対価としての給与や報酬などが挙げられます。


     そのため、仮に海外に住んでいたとしてもこのような収入がある場合には、日本での申告も必要となる場合があります(ただし、租税条約という国同士の税務に関する条約が存在し、そのルールの中では、別のルールが定められていることがあります。その場合、条約のルールが優先となるため、上記で述べた取扱いと異なることがあります。)。

    国際関係の取引は上記のように日本の法律や租税条約が絡んでいるため、専門家へ相談することをお勧めします。


  2. 相続税
     日本では、相続税や贈与税といった個人からの贈与や相続の際に資産を引き受ける際に課税されます。例えばシンガポールのように、海外ではこのような相続税や贈与税がない国もございます。そのため、富裕層の中の方には、海外に移住することも検討する方がいらっしゃいます。

     ただ、ここで注意が必要なのは、単に海外に移住しただけでは、日本の相続税の課税対象からは外れないということです。

     例えば、相続人が海外に居住している場合、日本国内の財産が課税対象となりますが、被相続人が日本国内いたような場合や、海外に住んでから10年以内に亡くなった場合については、仮に相続人が海外に居住していたとしても、日本国外にある財産も含めて日本の相続税の課税対象となります。そのため、このような場合には、日本に住んでいる場合と課税される金額が変わらないこととなります。

     このように相続税や贈与税については、課税逃れがないように厳しくルールが定められているため、注意が必要です。


  3. 出国税(国外転出時課税)
     こちらは所得税法の中の一つのルールとなります。ここでいう「国外転出」とは、日本国内に住所や居所を持たなくなることを言います。

     国外転出をする場合で、1億円以上の有価証券等を所有している場合には、その保有する資産の含み益に対して、所得税が課税される制度です。例えば、簡単な例で説明をすると、5,000万円で出資をしていた株式などが国外転出時において、時価が2億円となっていたような場合には、2億円-5,000万円 = 1億5,000万円の含み益に対して、所得税が課税されるという制度です。


     こちらの制度では、「納税管理人」を置いているかどうかで取扱いが変わります。 「納税管理人」は特別な資格は必要ないので、税務署に日本における納税事務を担当する人を届出の形で提出することで誰でもなれます。一般的には、お金に関することのため、信頼のおける親族や顧問税理士等がなることが多いです。


     「納税管理人」を置かなかった場合には、国外転出するまでに上記の含み益に対する所得税の確定申告を行い、納付も完了する必要があるため、ハードルが高くなります。


     「納税管理人」を置く場合には、国外転出時までに納税管理人を置くことによって、確定申告は国外転出後の翌年の通常の確定申告期限までに申告を行えば、問題ありません。また、担保提供を行うことにより、納税猶予の制度(通常5年、一定の要件を満たす場合、最大10年)を受けることも可能です。


     このように、国外転出を考える方は、シミュレーション等を綿密に行わないと思わぬ出費や課税がされることもあるため、前もって専門家等相談を行いながら、対応し準備をすることが必要です。また、個々人の状況により、取扱いが変わる可能性もあるので、その点にも注意が必要です。

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